奪われし未来:OUR STOLEN FUTURE
シーア・コルボーン ダイアン・ダマノスキ ジョン・ピーターソン・マイヤーズ
   翔泳社(1997年9月)1800円(366ページ)

徐 丙鉄(近畿大学工学部)98.12.4

 これは非常に興味深い本だ。内容は暗いが、環境ホルモンの影響を発見する過程は面白い。ただし、副題にA Scientific Detective Story(科学的探偵物語)とある通り、環境ホルモンの人体への悪影響は疑われてはいるが証明されてはいない。しかし、人体への悪影響が疑われる場合は「疑わしきは罰する」態度でのぞむべきだろう。

 ホルモンは生体をコントロールする役割を担うメッセンジャー化学物質である。発生の各段階の適切な時期に適量のホルモンが必要とされる。ホルモンはごく微量で効果を表すが、その程度は驚異的である。

ホルモンの濃度で問題となるのは、ppt(1兆分の1)という単位なのである。・・・1pptというのは、タンク車660台分のトニックに、ジンを一滴垂らした量に相当する。タンク車660台といえば、全長10キロメートルにも及ぶだろう。(p.71)
 また、従来、胎児は胎盤により母体からの悪影響を防御しているという「胎盤による防御」という神話があったが、これは脆くも崩れ去った。
妊婦は、サリドマイドを精神安定剤ないしはつわりを抑える薬として服用していた。結局、サリドマイドが市場と医療施設から前面撤廃されるまでに、重篤な奇形を伴って生まれてきた赤ん坊は46か国で8000人にも上ったのである。こうして、胎盤が薬物から胎児を守るという説が「神話」にすぎないことが明らかになった。この悲劇からはまた、成人にとっては特に問題とならない化学物質や服用量であっても、胎児には致命的な影響を及ぼしかねないことがはっきりした。(p.84)
 サリドマイド事件によって、環境ホルモンを服用する時期によって胎児への影響の出方が異なり、量とはあまり関係しないことが分かった。

 次の事件:クローバー病(p.120)、も興味深い。
 1940年代の初頭の西オーストラリアで羊の生殖異常が発生した。羊の死産が増加し、雌羊が陣痛を起こさなくなった。体内の子羊は死に、母羊が命を落とすこともあったという。そしてついには雌羊が妊娠しなくなった。これらの生殖異常の原因はクローバーにあった。クローバーが擬似女性ホルモンを生成していたのである。「植物は進化の過程で護身用に経口避妊薬をつくっている」と表現した学者がいる。パセリ、セージ、ニンニク、米、大豆、ジャガイモ、ニンジン、リンゴ、コーヒーにも擬似ホルモンが含まれるという。羊のように主食としてこれらの植物を多量に食べる人はいないから問題はないのだろうが、少し驚いた。


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