複雑系 COMPLEXITY
the emerging science at the edge of oeder and chaos
M. ミッチェル・ワールドロップ、訳:田中三彦・遠山峻征、新潮社(1996年6月:原著1992年出版)、524ページ、3,400円

徐 丙鉄(近畿大学工学部)

 物理学に停滞感がある一方、新たな分野として脚光を浴びているのが複雑系である。 複雑系とは、それぞれの要素は簡単な構造や反応をするのだが、要素数が多いときには、 それらが相互作用した結果、個々の要素からは想像も できないような性質や振る舞いが創発する系を指す。 つまり、「全体は要素の総和よりも大きく」なることが ある系を指す。 還元主義的なアプローチでは理解できない現象を解明しようとする新たな科学分野である。
 この本には、講演を聴いたことのある人物(アンダーソン、ウルフラム)、 論文を通して知っていた人物(ファーマー、パッカード、バーク、リンデンマイヤー)、 名のみ知っていた人物(ゲルマン、ラングトン)が登場し興味深かった。
 新たな分野を創造するバイタリティに驚嘆する。知的チャレンジをする風土がアメリカにはあること を再確認した。

 研究所の詳細は次のホームページで公開されている。

サンタフェ研究所のホームページ

目次と読書メモ

第1章 アイルランド的ヒーロー

--- 世界のダイナミクスをとらえる新経済学:ブライアン・アーサー(1980年頃)

ポジティブ・フィードバックのために収穫逓増(increasing returns)が起き、 ロックイン(lock-in)する例(デファクト・スタンダードの確立)

いつだったか、収穫逓減の例をテレビで聞いた。「ケーキを1個食べたときおいしいと思う。しかし、2個食べれば2倍おいしいと思うか?3個食べれば3倍おいしいか?そういうことはないですね。得られる幸福感は、食べた量に比例せず、だんだん少なくなります。これが収穫逓減です。」と経済学者は述べた(少し言い回しはことなるだろうが、こんなことを言っていた。)経済学では収穫逓減が一般的な法則なのだそうだ。それに対しブライアン・アーサーは収穫逓増的な現象が数多くあることに着目した。

第2章 老年急進派の反乱

--- サンタフェ研究所の胎動
 マレー・ゲルマン(素粒子物理、クォークモデルを提唱しノーベル賞を受賞)、 フィリップ・アンダースン(物性物理、ノーベル賞を受賞)、 ケネス・アロー(経済学者、ノーベル賞を受賞)など老年急進派がジョージ・コーワン(物理学者、サンタフェ研究所初代プレジデント)の企画をきっかけに複雑系を研究するサンタフェ研究所(SFI)を設立する(1984年)。

第3章 悪魔の秘密

--- 生命の起源を探る遺伝子ネットワーク研究
 スチュアート・カウフマンのランダムネットワークの研究

第4章 君ら、本当にそんなこと信じているのかね?

--- 経済学者と物理学者の理解・不理解

第5章 遊戯名人

--- 複雑適応系としての世界

第6章 生命はカオスの縁に

--- 人工生命が語る生命の本質

ラングトンのアナロジー(p321)
セル・オートマトンのクラス力学系物質 コンピューテーション生命
IとII秩序固体停止あまりにも静
IV 複雑性 相転移 決定不能 生命・知性
IIIカオス流体 暴走あまりにも動

セルオートマトンのクラス

第7章 ガラス箱の経済

--- 株を売買するコンピュータ

第8章 カルノーを待ちながら

--- 新しい第2法則誕生の予感

第9章 その後のサンタフェ研究所

--- 21世紀の地球のための科学

「科学の世界に身を置かない者は、ともすると、科学は演繹によって成り立っていると考えがちだ。 だが実際には、科学はおもにメタファーによって成り立っている。 そしていま起きているのは、人が頭のなかに持っているメタファーの種類が 変わりつつあるということ。」ブライアン・アーサー(経済学者)


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