フェルマーの最終定理
ピュタゴラスに始まり,ワイルズが証明するまで
サイモン・シン/青木薫:訳 新潮社(2000年1月)2300円(397ページ)

徐 丙鉄(近畿大学工学部)2000.5.10

 これはわくわくする面白い本だ. 1994年にワイルズがフェルマーの定理の証明に成功して以来, フェルマーの定理関連の本が数冊出版されているが, この本以上に面白い本はないのではなかろうか. 同様な本としてアクゼルの 「天才数学者たちが挑んだ最大の難問---フェルマーの最終定理が解けるまで」 を読んだことがあるが,シンの方がずっと面白い. この本はBBCのドキュメンタリー番組から生まれた. NHKでも放送されたそうだが,残念なことに見逃した.
なお,著者のサイモン・シンは元理論物理学者だそうだ.

 第1章は次の引用から始まる.

アイスキュロスが忘れ去られても,アルキメデスは記憶されるだろう.
言葉が滅んでも、数学の概念は滅びないからである.
「不滅」とは愚かしい言葉かもしれないが,
それが意味するものになる可能性は,たぶん数学者がいちばん高い.
(G.H. ハーディ)
数学の詩人,ハーディらしい言葉だ. このような感覚に共鳴する科学者は多い.

この本の特徴は数学そのものに触れられる点だ.

補遺には, など数学の雰囲気を味わえる例がたくさん挿入されている.

 また,著者が理論物理学者であったことから,物理(科学)にも触れられる. 例えば,42ページに次のような話がある.

ハンス・ヘンリック・ステルムは, いろいろな川の実際の長さと,水源から河口までの直線距離との比を求めた. その比は平均すると3.14になることがわかった. これはπ,すなわち円周と直径の比の値に近い.

これは興味深い.これはどれくらい普遍的に成り立つのか. πにちかくなるのは,非常になだらかな平原を流れる場合らしい.

さらに、 十七年蝉のライフサイクル17年が素数であることの理由の進化論的解釈(137ページ), ペンローズのタイル張りと準結晶(226ページ), など興味深い話題が登場する.

 もちろんフェルマーの最終定理の証明の詳細はこの本を読んでも分からないが, どのような方針で証明されたかを明瞭に記述している. この点でも貴重な本だ.

 新潮社は一般科学物で好い本を出版する.この分野に有能な編集者、目利きがいるのであろう. 「沈黙の春」「複雑系」「ケンブリッジ・クインテッド」「カオス」などが思いつく.


[ Home Page ] [ おもしろい本、ためになる本 ]