電子立国日本の自叙伝(全7巻)
相田洋 NHK出版(NHKライブラリ)(1995年〜1996年)各巻1100円

徐 丙鉄(近畿大学工学部)2000.3.22

 これは平成3年にNHKでテレビ放送されて評判になったシリーズの記録です.放送されたときこのシリーズの内何回かは見たように記憶しています.全部を見たいと思ったものでした.ビデオが販売されています.

 内容はトランジスタから始まる半導体素子の開発と半導体産業の発展の歴史ドラマです.第1巻ではトランジスタの原理の説明もあり科学読み物としても有益です.さらに人間ドラマとしても楽しめます.

 トランジスタを開発した人物の一人ショックレーはノーベル賞を受賞したという点では素晴らしい人生でした.一方,トランジスタの商業化を狙って半導体研究所を設立しますが,研究員に離反という手痛い打撃を受けます.そのショックレーの知能崇拝主義には呆れました.彼は研究員募集の広告には電話番号を暗号化して掲載したそうですし,面接においても電子工学や電磁気学に関する質問を矢継ぎ早に1時間以上もしたといいます.晩年には「アメリカでは,教育を受けて将来のことを考えるクオリティの高い人達は子供を一人か二人しか持たない.その結果クオリティの低い人達が増える.これはアメリカの将来にとって由々しき問題だ.」という持論をことある毎に開陳して非難を浴びます.

 ショックレー研究所をスピンアウトした人達が,フェアチャイルド社を作り,インテル社を作り,現在の半導体産業の礎を築いて行くのです.

 さて,日本で半導体産業が隆盛を極めた背景に日本人の粘り強さがあるという指摘がなされています.

究極の先端技術の行きつく先は結局,人間の資質ということになるんですが,そういうものに取り組むときに絶対必要な粘り強さとか特異な才能,それらをもっている人材を私達は非常に大切にした.(吉田庄一郎:ニコン)
 日本人の特質として,何事も徹底する,極める,ということがうまく機能すると諸外国には真似のできない高精度の製造装置,信頼性の高い製品を作ることができる.これが日本の工業力の源であろうと思います.

 例えば半導体製造装置の中には高精度の水平性が要求されるものがあります.その精度は東京・富士市間で高低差がわずか5センチ以内というものだそうです.この精度をだすために最後は人間が砥石で磨くわけですが,その職人には非常な粘り強さと神業的職人芸が要求されます.

 しかし,どのような分野にもこの特質が発揮されるというわけではないようです.あるものを改良するというような問題,つまり,いったん方向性が決まり,目標が明確になった場合が特に得意な国民性のようです.諸外国からは模倣だとか二番手商法だとかと非難されますが,これはこれで高く評価されるべきでしょう.

 新幹線でのコンクリート落下,国産ロケットの打ち上げ連続失敗など,この日本人の資質が失われつつあるのではないかと思わせる出来事が連続しています.もし本当にこの資質を失うことになれば日本は経済的に滅亡するのではないでしょうか.

 なお、シリコンウエハーを切断する切断機メーカーのトップとしてディスコ社が第7巻で紹介されていますが,この会社の本社は呉市広町にあり,近畿大学工学部呉キャンパスからも歩いて10分程度です.ディスコ社の前を国道185号線が走っており,私もよく前を通り過ぎます.このような企業をとんがった企業というのでしょう.


[ Home Page ] [ おもしろい本、ためになる本 ]