「パラサイト・イヴ」
瀬名秀明 角川書店(角川ホラー文庫)(1996年12月)800円

徐 丙鉄(近畿大学工学部)97.1.17

パラサイトとは寄生虫のこと。イヴはもちろんアダムとイヴのイヴ。

 細胞内のエネルギー工場であるミトコンドリアは、 大きさがバクテリアと同程度であり、内部に環状DNAを持つ点もバクテリアと同じであることから、 かつて原始的な新核生物の細胞に寄生したバクテリアの子孫であると考えられている (内部共生仮説)。 ミトコンドリアは現在では細胞の中で共生しており核内のDNAの支配を受けているが、 それが反乱を起こし、新しい種を生み出そうとするというホラー小説である。 著者は薬学部の博士課程をでており、小説中の随所に現代生物学の知見が散りばめられている。 単なるホラー以上のものにできあがっている。 生化学と細胞進化の良い解説書でもある。

 ここで細胞の進化の歴史を簡単にお話しましょう。地球で最初に生命が現れたのは、 およそ39億年から37億年前のことだったろうと考えられています。 最初の生命体は、柔らかな膜の中にDNAを包んだ簡単なもので、海底火山の近くに棲み、 火山が出す硫化水素を栄養源にしていたのだといわれています。 このころはまだ地球上には酸素がほとんどありませんでした。
 ところがこの生命体からシアノバクテリアという生物が進化してきました。 これはいまの葉緑体の祖先で、光合成によって糖をつくり、そして酸素を吐き出すのです。
・・・
シアノバクテリアによってつくられた酸素が海に充満してゆく。 この酸素を栄養源にすることができないかと考えた生物がいたのです。それが好気性バクテリア、 すなわちミトコンドリアの祖先なのです。 このバクテリアは酸素を使うことによって、普通のバクテリアとは比べものにならないほどのエネルギーを 産生できるようになりました。
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そして今から10億年前に、大事件が起こったのです。好気性バクテリアが火山の近くで ほそぼそと生きていたわれわれの祖先の体の中に入ってしまったのです。 ・・・(191ページ)

ミトコンドリア・イブ

 1981年にフレデリック・サンガーたちがヒトのミトコンドリアDNAの構造を完全に解析した。 このDNAは約16000塩基対からなる。 このDNAは置換速度が速いため精密な分子時計に利用できる。
 1987年にアラン・ウィルソンらは、世界各地の各人種の細胞を集め、 そのミトコンドリアDNAを解析し、全人類の祖先はアフリカで生まれた一人の女性 (ミトコンドリア・イブ)にまで さかのぼれるという仮説を提唱した。

 この小説は映画化され、2月1日から東宝系でロードショウが始まる。 特撮を駆使したという。気味が悪いのは苦手なので、見ようかどうしようか迷うところだ。

なお、この著者の次回作品は「脳」をテーマとするとのこと。


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